抗生物質と多剤耐性菌

2012年10月29日 | コメント(0)

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先月28日に新しい抗生物質の『タイガシル』が日本での製造承認を取得し発売される見込みです。普段から感染症の治療に用いられる抗生物質ですが新しい抗生物質にはどのような臨床的意義があるのでしょうか。その前に抗生物質について少し振り返ってみましょう。
世界初の抗生物質が『ペニシリン』であることはよく知られています。発見者はこの成果によりノーベル医学賞を受賞したほど、感染症に対する根治療法がない当時ペニシリンの登場は大変画期的なものでした。
 現在の日本人の死因は1位がん、2位が心臓病、3位が脳血管障害で肺炎が4位とこれに続きますが、戦前の日本では死因第1位は結核で、2位が肺炎でした。かつては『不治の病』として猛威を奮った結核。当時は結核に罹患=死という概念が一般的で『結核』とう病名を口にするのも憚られたそうです。しかし抗生物質『ストレプトマイシン』の発見により治療が可能になり結核は『不治の病』ではなくなりました。発見者もこの功績によりノーベル医学賞を受賞しています。
 しかし時代が下ると抗生物質が効かない『薬剤耐性菌』が出現します。ペニシリン耐性菌はペニシリンを化学分解する酵素(β-ラクタマーゼ)を自身で作ることでペニシリンを無効にしてしまうことが分かりました。そこでこの酵素が効かない『メチシリン』という新型ペニシリンが開発されました。メチシリンは副作用が問題になったので『セフェム系』という新しい系統の薬剤が開発され、こちらもβ-ラクタマーゼによる化学分解を受けにくいものです。しかしその後『メチシリン』が効かない『MRSA』(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌:Methicillin-resistant Staphyrococcus aureus)という耐性菌が出現します。この菌を除菌できるのは『バンコマイシン』などのごく一部の抗生物質に限られます。
 『MRSA』などの2種以上の抗生物質が無効な細菌を『多剤耐性菌』といい、医療現場で大変問題となっています(多剤耐性アシネトバクターや多剤耐性緑膿菌など)。健常者は免疫により『多剤耐性菌』による感染症を発症することは稀ですが、入院中の免疫力が低下している患者さんが薬の効かない『多剤耐性菌』に感染すると治療の選択肢が限られてしまうので大変です。新しい抗生物質の『タイガシル』はグリシルサイクリン系と言われる幅広い抗菌力をもっている『多剤耐性菌』に有効なタイプの抗生物質で既に欧米では使用されている薬剤です。医療の進歩によって救われる命が増えることは大変喜ばしいことだと思います。



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